精神医学、心理学、産業医学には臨床実践において様々な課題が存在します。わたしは、弊社を通じた臨床実践活動において、下記のテーマを特に重視しています。
精神医学
精神医学は長らく、トラウマや発達障害の問題を適切にとらえることができずにいました。しかし、啓蒙が進み、診断基準がいよいよ複雑性PTSDという形で整備された今、これからは精神科医がこうした問題を発見し、治療ないしは適切な支援に繋いでいけるようにならねばならないと考えています。
それでは、トラウマや発達障害の治療、支援のためには何が必要でしょうか。わたしは、
・精神科医の心理学的知識の向上
・心理士との連携の強化
・トラウマ治療についてのエビデンスの蓄積
が、3大テーマであると考えています。
精神科医は概して心理士よりも強固な枠組みに守られ、より大きな裁量権を持ち、そして現実としてより社会的権威があるとみなされています。こうした枠組みや裁量を盾に、心理支援の実情を理解することなく大所高所から物申す構造があまりに多いことは残念なことです。
心理学(臨床心理学)
上でも少し述べましたが、臨床心理士と精神科医は長らく、近くて遠いお隣さんのような関係にありました。精神科医は心理士に医学的知識の不十分さや症状の改善が得られないことを責め、心理士は精神科医の心理学への無理解を責めるような構造すら散見されてきました。こうした構造には、精神科医にも大いに責任がある一方、心理士の側にも責任の一端があるように思われます。
わたしは、精神科医と心理士の関係がよりよいものになることがとても大切だと思っていますが、そのためには
・心理士の精神医学・精神科医という存在についての理解の深まり
・「病院で役立ちやすい」心理支援スキルの向上
・臨床心理士の地位向上
が重要であると考えています。
精神科医は医師であって、看護師でも心理士でもなく、一義的には診断をし、処方をし、症状の改善を図る人々です。これは、他の医学領域と差はありません。しかしながら、精神科医だけはなぜか「わかってくれない」とやり玉にあげられがちなのですが、心理支援という枠組みでは理解しがたくても、医療という観点では合理的な判断が行われていることも多いように思います。
産業医学
産業医として取り組むべきことの中では、心理支援の領域はごく一部です。健康診断や健康保持増進、安全対策としての作業管理や作業環境測定、化学物質の自律的管理等の法令遵守など、多岐にわたります。
とはいえ、心理支援の分野でお困りの会社様も多く、そうした点についていえば、
・休職、復職支援の問題
・発達障害と業務適性
・精神科を専門としない産業医の精神疾患対応力の向上
が、3大テーマと考えています。
こうした背景には、産業医と精神科の主治医の連携の困難や、精神科医側が産業医の実態をよく知らないこと、発達障害という言葉の一人歩き、職場・本人による過剰なASD、ADHDの診断などが挙げられます。
心理支援とそのほかの安全衛生業務の両輪を回し、よりよい職場環境の形成を目指しています。