初期研修医のうちに産業医の資格は取得していたのですが、精神科医として休職の診断書を書く中で、どうして休職になるのだろう、会社の産業医とはどういう仕事なのだろう、と興味を持つようになりました。実際に会社の産業医として従事すると、逆に精神科医というのはいかに楽な仕事だろうか、と思うようになりました。産業医の仕事は健康診断やストレスチェックの事後面談だけではなく、法令遵守、過去の判例に基づいたグレーゾーンへの対応を伴った、個人と会社という不均衡のバランス調整の仕事であると思うようになったからです。
精神医療と産業医
精神科医として働くうえでも、産業医の経験は非常に役立っています。診断書の作成でこう書くと産業医の先生が困ってしまったり、社員さんが不利益を被るだろう、ということもわかりますし、復職の過程できちんと生活指導をしておくと、本人の休職後の定着に役立つこともわかるようになったからです。産業医と精神科医はどうしても利害の対立を生じやすいところがありますが、もう少し精神科医も産業医の立場を理解できると良いように思っています。
心理領域と産業医
心理支援の場においては、産業医という肩書はあまり意味を持ちません。しかし、産業医としての経験は役に立ちます。パーツワーク、内的家族システムといった考え方のあるように、人間の心の中にも様々な役割を果たす部分があり、助け合ったりいがみ合ったりすることで一人の人間は成り立っています。私は必ずしもパーツワークの考えに賛同しませんが、社内でメンタルの問題を抱えた社員さんを見ると、会社という組織の中で異物として取り扱われる状況と、個人の中で抑圧された問題を重ね合わせて感じることがよくあります。